創業140年に向かう湘南のレジェンダリー企業は、新たに若きリーダーを迎え、激変する社会変化に果敢にのぞむ。
近年激化する自然災害と迅速な経済社会の中で湘南の家づくりにも変化が求められる時代なりました。
(株)キリガヤの新たな家づくりのテーマは、災害にも強い構造体と、湘南らしい心地よい暮らし方。愛着があり、長く住み続けられる家と街づくりを掲げています。
取 材◎藤原靖久
撮 影◎山本倫子 2021年1月収録
2018年10月に社長に就任し、もとより経営的な内容は把握しておりましたので実務は問題なかったのですが、自分が直接関わっていないことにも責任を持つということも含め、精神面は大きなプレッシャーがありました。ただお客様に対して素直に向き合うという基本をしっかり実践していこうと思いながら2年と3ヶ月がたちました。消費増税があり、台風被害があり、新型コロナウイルス感染拡大がありという大変な期間でしたが、コロナ対策にはいち早く社内で「緊急対応マニアル」を作ったことで、お客様や社員にも安心していただくことができました。数字的業績としては幸運にも恵まれてコロナ禍においても順調に推移しております。
キリガヤでは「木の家づくり」「強い構造体」「庭づくり」「街並み」という基本的なテーマがあります。木を生かした家づくりは良い街並みを作り、大空間や可変性のある間取りを可能にする強い構造は数十年先を見すえた家づくりには欠かせないと考えています。加えて近年では台風や地震など自然災害が毎年のように発生して、従来の常識では測れないほどです。一昨年の台風19号では瞬間最大風速44メートルの暴風が吹きました。風の通り道となる地域ではそれ以上の威力だったのではないでしょうか。どれだけ凝った内装も高性能な設備も後からつくりかえることは可能ですが、構造だけは建てた時のスペックから変更はできません。その意味では強い構造は必須だと考えています。
私は逗子で生まれ育ちましたが、中学から他の街や海外で暮らしたので、逗子に戻ってきてあらためてこの街の良さを感じます。海と山に囲まれ自然豊かで、都心に近いのにちょっと田舎っぽさもある。マリンスポーツやハイキング、ジョギングに犬の散歩とアウトドアを楽しむ人が多いこと、自然と会釈し合える優しい街です。そして車を走らせていても右折するときや横断歩道などで譲り合うドライバーが多くマナーも良いですね。
今後も湘南地域の特性を生かした「心地よい暮らし方」を提案していきたいと思います。湘南の魅力はなんといっても空気、空、緑、海といった自然環境にあると感じています。近年の建物は断熱性、気密性が良くなっているので、窓を閉め切って家に閉じこもれば温熱環境は最良ですが、その生活に心地よさはあまり感じないし、湘南で暮らす意味がありません。
家の性能が良くなれば良くなるほど戸外との距離が離れてしまうように感じます。家と庭をつなぐ中間領域を5th room(5番目の部屋)と呼ぶようですが、ウッドデッキを子どもたちが小さい頃だけの遊び場ではなく、季節要因的に使用するのでもなく、家族みんなで全天候、全季節型に使用できるアウトドアリビングとして提案していきたいですね。
私の自邸も庭に面して2階の軒を深くしてウッドデッキをしつらえました。雨の日でもそこに座って空気を感じることができます。寒い冬でもブランケットを掛けてダウンを着込んで過ごします。自然の音を聞きながら季節の移り変わりを肌で感じることは最高です。子どもの頃公園で走り回って感じていた自然を、五感で感じられる、そんな「外遊び」の暮らし方です。
弊社は明治15年にここ逗子で創業して139年、地域の皆様とともに成長してきた会社です。住まいづくりは建物の引き渡しをもって終わるものではなく、そこからが長いおつきあいの始まりとなります。本物の素材を確かな技術と品質でつくりあげ、そしてお施主様とともに愛着を持ってお手入れしていくことで50年、100年と住み継がれていく家になります。そんな素敵な街並み、住まいづくりをぜひお手伝いさせてください。
桐ヶ谷郁人*1976年神奈川県逗子生まれ逗子育ち。44歳。静岡県の中学、高校を経て玉川大学文学部、のちカナダ・バンクーバーに留学。帰国後6年間三重県四日市市で商社に勤め、名古屋で材木流通に2年間勤務、実務と経験を積んで32歳で(株)キリガヤに入社。2018年10月、実父の桐ヶ谷覚氏(現逗子市長)から代表職を引き継ぐ。現在在職12年。ご家族は奥様とお子様3人の5人家族。逗子市在住。