東京港区〜葉山町へ 小野亜季・暢夫さん
ウイズコロナでは、移住の動機としてテレワークや子育てが最大のキーワードとなっていて、その中心は30−40歳代のファミリー層です。
いっぽうで仕事や子育てなどで人生の大きな役割を果たしつつある豊かなシニア世代も、環境の変化を求めて移住計画が進んでいるようです。
今回は東京のど真ん中、広尾の町から葉山町に移りすんだ小野さんを訪ねました。
荷物を全部おろしてしまって、あとは自分の時間をどう使おうかと思ったとき、そこが都会ではなく、葉山だったのです。
わたしたち「バイザシー」が注目する海のそばの暮らし。ここには平穏な田舎暮らしを求めるだけではなく、新しいエキサイティングな出会いや発見、さらに心を研ぎ澄ますためのなにかを求めているようです。
わたしたち夫婦は二人とも転居に関してはとても慣れていました。葉山に移住する前は東京・広尾にいましたが、ハワイも好きだったし、いずれは海のそばに住みたいねと漠然とした気持ちは持っていました。娘の学校のこともあって、しばらくは週末だけ過ごすお家を葉山に借りていたのです。
湘南に限らず千葉方面でも探していましたが、土地の知識がなかったところに、フラの仲間から「ほかの街も良いけれど一度、葉山を見にきてください」とアドバイスをいただきました。
小野亜季さんの生まれ育ちは関東。親の仕事関係で6年おきに転居を重ね、ご自身もカリフォルニアに留学経験もあるくらい転居には寛容。フラの経験は15年。趣味はお料理や、最近ではSUPや釣りにも興じている。近々フラスタジオとギフトショップを計画中。また、ご主人の小野暢夫さんは、投資顧問会社の経営と、京町家を修繕して日本建築を活かし、ラグジュアリーホテルの快適さを備えた一棟貸しの宿「京町家宿ケンプトン」代表取締役でもある。
葉山の大浜海岸で友人のカヌーの練習を見に行ったのですが、その日は朝からいまにも雨が降りそうな天気だったにもかかわらず、「ずっとここにいたいなあ」という感覚。街を歩いていて直感みたいに「ああ幸せだわ」と。
海と山に囲まれた安心感とか、人びとの穏やかさだったり、わたしにはちょうどいいサイズ感だと感じました。
それから葉山町で土地探しが始まりました。くるみ(愛犬)を連れて毎週のように街を見てまわりました。このあたりの路地裏はほとんど歩きました。
葉山は土地を持っていても譲らないという余裕のある方も多いので、なかなか市場に出ないのです。だけど娘の卒業のタイミングや東京のマンションの更新も近づいてくる。
そろそろ本気で土地探して家を建てようと決断しました。
ちょうどそのタイミングで、行きつけのカフェでこの土地のお話をいただきました。結局5年かかりましたが、ご縁とかタイミングでしたね。
土地探しをしているときに、海外のエッセンスが込められた素敵なおたくが建築の本に出ていて、施工がスターホームと書いてあったので覚えていたのです。
それである土地のことで相談したら、社長ご自身が親身になって相談に乗っていただきました。土地を買ったあとも、家を建てるならスターホームさんで決めていました。
気候とか地元の業者さんでないとわからないことがたくさんあるので、葉山のこともよく教えていただきました。どんな施工が得意とされているのかもよくわからず、すっかり信頼していました。(笑)
家づくりでは、わたしは自分で「夢ノート」を書いていました。5年かけて家探しをしていたので頭の中に夢がいっぱいありました。旅で見つけた建物の写真を貼り付けたり、希望をメモしたり、絵を描いたり。そのノートを建築士の方にお渡ししましたが、それはほぼ叶えてくれましたね。
お家って希望に限りがないけれど、予算もあるから、どこにお金をかけるかとポイントを決めたんです。「あなたが一番長くいるのはどこ?」って考えて、キッチンと洗面所にはまったく妥協はしませんでした。キッチンの大きさ、色はもちろん、高さや黒のハンドル、エッジの形までしっかりこだわりました。
洗面所はホテルっぽくしたい希望があって、コロナなのに名古屋のショールームまで見に行ったほどです。
二階リビングにしたのは、歳を取っても足腰を鍛えられるだろうと、あえて考えました。わたしが一人になって動けなくなったらここを売って施設に入れてくださいと。中高年のこれからの新しい暮らしは、そこまで考えおかないと意味がないと思います。
断捨離もしましたよ。着ないお洋服や靴、思い出の品も捨てましょうと(笑)。仕事の書類などは会社に、娘の思い出の工作なんかも写真に撮って。
物が減っていくのはスペースができたなって思いますが、物を増やすのは心に負担がかかる気がします。
先日久しぶりに広尾に行ったら、町の臭いを感じたんです。人や車や飲食店などの都会の匂いです。葉山に来てからその違いを感じることが多くなりました。都会にいるといつも「何かしなくちゃ」という無意識な感覚があったのですが、ここにいるとただ海を見てボーとしていることもよくあります。
東京のマンションで暮らしていると台風といっても生活に怖さを感じることは少ない。一方で海のそばの生活は、台風の威力や塩害や地震、台風などの自然災害を目の当たりにすることが多くなります。
どこでも土地にはリスクはあると思うんですが、台風や高波とか崖崩れとか、まさに自然は怖いよということを感じられるのは、人間的な暮らしをしていること、都会では知ることができないですよね。
鎌倉から逗子や葉山町は、比較的高齢の方も多く、都会からの移住者にも終の住処としての移住も増えているようです。
たしかに、ミドルシニアの方の移住も多いと思います。
都会での生活は美味しいものも食べられるし素敵ですし、子供の学校教育という環境ではとても恵まれていると思います。
楽しいこともたくさんやってきて、子供が育って、荷物を全部おろしてしまって、あとは自分の時間をどう使おうかと思ったとき、そこが都会ではなく、葉山だったのです。
解放された時に求めたのが自然でしたし、この葉山の街だったんです。葉山でも中高年の方はみんな元気ですよ。都会では朝からクリニックに長蛇の列です。でもここではみんな杖をついてでも行くのは海ですからね。医療も充実しているし、スーパーもあるから頂戴いい田舎なんです。中高年には優しい町だと思います。
高齢というにはまだまだ時間のあるミドル世代が、意思を持って移住し、新しい生活をはじめています。小野さんのように海外や都会のエッセンスを持ち込んでくる移住者は、受け入れる街からみれば、それは街をおしゃれで元気にするビタミンのような存在かもしれません。
葉山町に流れる気品ある文化、生活。いっぽうで古くから住まわれるかたとの交流によって新しいケミストリーが生まれるかもしれません。
<取材協力>
スターホーム 株式会社
〒240-0115 神奈川県三浦郡葉山町上山口1431-1