人生にはそれぞれステージがあります。私たちは子育ては終わっていたし、自分の人生の仕上げをどこで過ごすかがテーマだったのです。
2015年暮れも迫った頃、当時東京目黒区にお住まいだったNさんは、お子様の独立を機におふたりの新しい人生を描くため、新天地をお探しでした。
「なんとなく海や海岸線のほうに住もうという気持ちで」鎌倉方面を探索していた頃に今の海沿いの高台に気に入った土地を見つけられました。
当時も今も、おふたりの共通の趣味は旅行。1年に1度はヨーロッパに渡航してレンタカーで各地をドライブするほどの熱心さ。とくにイタリアがお好きで新しい住まいもそんな生活をイメージされていました。建物に関しては小誌バイザシー の企画でお手伝いして、南欧風建築に詳しい建築家太田充美(有限会社ボッテガベルタ)さんと出会うことに。それから1年後2016年暮れには現在のお家に転居されました。旅で見たイタリアの田舎町の家の姿がそのまま実現したようなお家です。
当時を振り返って話されます。
ご主人は主(あるじ)として40才で購入した家が75才までローンが残るという現実や、定年後の人生設計を考え、家を売るタイミングを始めていました。ローンのない老後の生活を目標に、住宅ローンと中目黒の家のリセールバリュー(五輪前だったこともあり結果的にキャピタルゲインだったそう)など、資金計画をしっかりと構築されたそうです。
一方奥様は「中目黒はいいところでしたが、都会の3階建ての狭小住宅で、歳をとった時の生活の不便さや娘さん二人が独立して孫が生まれてくると、たまに帰省する実家としての機能。さらに当時主人の仕事もテレワークに入る時期だったし、だったら多少通勤時間がかかってもオンとオフがはっきりした生活ができるんじゃないかと考えました」
その条件で希望地の半径を広げてみた時に「山でもないし、やっぱり海かなと」という方向性から鎌倉が浮かび上がってきたそう。
「定年してからでも良かったけれど、人生にはそれぞれステージがあります。子育てをどこでするか。私たちはそれは終わっていたし、自分の人生の仕上げをどこで過ごすかがテーマだったのです。あまり遠すぎると子供たちも来てくれないし、ここは日帰りでもきてくれる場所なんです。そんなに田舎すぎないし、都会具合がちょうどいいのです」
そして2020年、初めに世界を震撼させた新型コロナ感染。ご主人も自宅でのテレワークの生活が始まる。
「自粛の頃、朝早くまだ人気のない頃に、海に降りたり山に行ったりできたことはほんとうに幸いでした。海だけでなくハイキングコースもあるし、1時間くらい歩くにはちょうどいいですね」まさに地元の特権です。
この街に来て3年が過ぎ、もうすっかり落ち着いた生活。
「主人はおつまみを作ったり、燻製器で魚やベーコンを吊るしたり、最近ではずっと休んでいたゴルフを再開しています。テレワークは時代の趨勢ですし、オンとオフを切り替えたいと思う方には是非」
遊びに来るお孫さんで賑やかなリビング。最近は玄関先にツバメが巣を作り、カラスの攻撃をかわすためにネットを張ったり、東京では気にしなかった自然とのふれあい。「虫が嫌いですからお庭は最小限に」と笑う奥様ですが、もうそこにはすっかり「湘南人」の顔がありました。
ミドルシニアが海や山の自然を求めて穏やかに過ごすことができる湘南移住。
人生の仕上げには最適な場所かもしれません。
取材協力:無添加住宅ライブハウス 取材・ワイズクリエイティブオフィス 撮影・園田咲子 no111bloom