2拠点ライフ、岩手編が続いている。春のメインイベント、田植えについてぜひ書いておきたい。
研修している農業法人では、約50町歩の田んぼで米を作っている。町歩(ちょうぶ)と言われても「?」だろう。数ヶ月前まで私もそうだった。1町歩は約1ヘクタール。東京ドームが4.7ヘクタールだから、50町歩は東京ドーム10個分ぐらいと考えてほしい。
さて、東京ドーム10個に苗を植えて回るわけだから、これが果てしない。もちろん手植えではなく、機械を使って植える。なんだ機械か、つまらなそう、と思うだろうか。これがどっこい、奥が深い。体験してびっくり。
田植えに関連する役割は大きく三つに分かれる。まずは田植え機を運転するオペレーター。各田んぼにはそれぞれ走行ルートがある。進入路は1箇所で、一度植えたところを踏みつけるわけにはいかないので、一筆書きの要領ですベて植えるコース取りをする。基本的には長辺を基準にし、進入路の反対側から植え始め、Uターンしながら最後に外周を回って出るのがセオリーだが、四角い田だけではなく、三角や変形の田もある。そうなるとルート取りは複雑だ。ナビなどなくても、田んぼごとのルートがオペレーターの頭の中には入っているらしい。
そして田植え機1台につき「手元」と呼ばれる係が1〜2人つく。「手元」はF1のピットクルーのようなものだ。道端で待機し、田植え機の往復に合わせて苗や肥料を補充する。ピットインの時間を短縮するほど、田植えは早く進むので、ぼんやりしている暇はない。オペレーターができない私は手元を担当することが多いのだが、この苗箱がずっしり重い。腱鞘炎まっしぐら。慌てて手首のサポーターを買いに走った。
オペレーター、手元の他に「苗運び」の係もいる。何十箱という苗箱を、育苗ハウスから出して軽トラに積み込み、その日田植えをする田んぼに運んで回る。苗を補充する場所に合わせて箱を下ろすため、田植え機の走行ルートがわかっていないと話にならない。
田植え機2台を稼働し、10人ほどのメンバーで、三つの役割を分担する。朝8時から夕方5時までひたすら田植えをする日々が、3週間弱続いた。メンバーはほぼ70代である。農家の人たちの体力たるや、恐るべし。
田植えは、スポーツであり、総合芸術でもある、と声を大にして伝えたい。
高橋有紀|1981年生まれ。国際基督教大学を卒業後出版社勤務。ライター・編集、農家見習い。現在逗子と岩手の2拠点ライフ。保護犬だった柴犬と暮らしている。趣味はシロギス釣り。