(1から続く)
材木屋が木を売ることはごく自然なことだが、いざ住宅の建築を手がけるとなると商売上さまざまな軋轢がうまれる。
にもかかわらずキリガヤは「木の家」を作りはじめた。
それは無垢の木への熱い思い、そして木を売ることを生業とする者の、貴い矜持だった。
Q:一般的に木は燃えやすいのではないかという単純な疑問があります。
アメリカは家の中から火を出さない、日本は燃え移る類焼(るいしょう)を重要視しています。屋根から軒先、外壁までほとんどすべてを不燃化しなさいと指導されています。木は燃えやすいかといえば燃えやすいものですが、私たちは法律に則って適切に進めていきます。木は厚みが増してくると燃えにくくなります。火は1時間に35ミリのスピードで炭化して鎮火してしまうというデータから140ミリの構造体でも維持できるわけですが、ここは(キリガヤ本社社屋:神奈川県逗子市)準防火地区でSE構法の200ミリ角の柱を採用しています。さらに燃え代(もえしろ)として計算しています。厚みが増せば燃えにくくなるし自然鎮火してしまうのです。いっぽうで鉄は火に強いというけれどある程度の温度になると変形して崩落します。ですから木は燃えやすいかと言われれば燃えますが、火に弱いかとなると、話はずいぶんと変わってくるわけです。
Q:また木はいたみやすい、腐りやすいのではないでしょうか。
木がいたみやすい要因には湿気に弱いとか、水が差し込んでくるところで使うには無理があります。また木の部位によって強い弱いもあります。丸太でも外周部の白い部分は成長途上の部位で白太(シラタ)といいますが、ここは栄養分が多いため腐りやすい。芯材は赤く成長が止まっていますからかびることはまずない。木は使い道を間違えてはいけません。こうした木の特長をお客様にきちんとお話ししておけばよいのですが、省略してしまうとあとでクレームとなります。ですからハウスメーカーが仕上げ材に無垢の木を使いにくいのでしょう。
Q:さらに、昔は木の家は寒いというイメージもありました。
木は断熱材です。針葉樹と広葉樹では比重がまったく違うのでひんやり感がちがいますが、木そのものは断熱材なのです。昔の住宅が寒いというのはすきま風だったわけです。断熱材もまったく入れていないし木の建具であったために木の欠点となって定着していましたが、きちんと性能を知って使っていくならばまったく寒いことはありません。むしろ温かい。しかし合板の床は梅雨時には結露してべたべたとしてきますが、無垢の場合はさらっとしています。たとえば柱1本が、水分を蓄える時はビール瓶2.5本分、乾燥して吐き出す時でも2本分は保持しているといわれます。つまり0.5本分で調湿しているわけです。家の中に全部使う必要はないですが、天井や腰壁とか、ちょっと木を使うことでも充分に調湿してくれます。湿度の変動が少ないのです。こうした木の快適性能を理解をしていただき、反るとか割れるとか狂うという欠点よりもはるかに人間の身体に優しいプラスの面があることを知っていただきたいのです。
Q:湘南地域では太陽光線の強さとか塩害があるわけですが、そのような自然環境に対して一番強い材料は木であるともいわれています。
そうです。ぜったいに向いています。
Q:木と人間との関係についてはいかがでしょうか。
まずどなたでも木の家は落ち着きます。先日木造校舎の学校ではインフルエンザによる学級閉鎖の数が圧倒的に少ないというニュースを聞きました。木そのものが抗菌作用をもっているか否かはわからないけど、暮らしの中でプラスに作用していることは考えられるのではないでしょうか。日本人は素足の文化ですから、足の裏がセンサーになっている。踏みごこち、ですね。ビニールシートの上を歩いているのと想像して比べてみてください。最低でも床は無垢の木であるべきだと思います。
Q:反りや暴れは木の特長として、施主はその特長をふまえておきたい。
そうですね。その特長をご理解いただいた上で、それに勝る木のありがたみを享受していただきたいと思います。昔に比べても乾燥技術や加工技術は格段に上がっていますから。
Q:いまキリガヤで積極的に勧められているSE構法についてはどのようにお考えですか。
私はSE構法がすべてだとは思っていないけれど、耐震構造からすればいい構法だと考えています。お施主様がどのような家を望まれるかによりますが、集成材が嫌だと言われる方もいらっしゃるし、その反対もあります。SE構法が良いのは在来工法の弱点である(柱に対して)四方向から梁が差して来る接続部の断面欠損が非常に少ないという点です。ボルトの穴が開くだけですから、柱自体をそれほどいじめません。だから耐震を心配される方には計算された強度があります。無垢の木の良さがある在来工法、人それぞれの価値観ですから、キリガヤではそれぞれご理解いただいて対応させていただいています。
また、材木屋という立場からお話しすると、日本の林業は伐採期を迎えている木がごまんとあるのでどんどん使っていかなければなりません。ご存知のように、老木は二酸化炭素を吸っても酸素を多く吐き出すことはできませんから、古い木を切って植え替えをしていかないと空気の清浄化にもならないのです。いまではその7割ちかくが伐採期を迎えていると言われていますが、まだまだ日本国内で木は使われていないのが現状です。世界に冠たる森林国ですから、木を使うことで日本の林業を守っていく。お客様は建築業のキリガヤという見方があろうかと思いますが、根っこにはまだ材木屋のプライド(矜持)もあるのですよ(笑)。
それから弊社で大切にしていることは「地元密着」です。建てておしまいなら利益効率もいいものですが、家というのは建ててからずっと責任がありますから、遠い現場というのはお互いに非常に困ります。家づくりとは半経30分以内の地域の仕事だと思っています。
Q:ありがとうございました。
Profile
桐ヶ谷覚◎株式会社キリガヤ代表取締役。1949年生まれ、建材問屋や工務店での経験を経て32歳で(株)キリガヤに正式入社。プレカット工場の建設や、ウッドデッキ事業、ガーデニング事業の経験を経て住宅建築もスタートした。2018年、東逗子の湘南モデルハウスは建築後20年目に入る。