2018年のクリスマス、私はハワイにいた。東京に暮らし忙しい日々を過ごしていた私は、自分へのご褒美も兼ねて家族でクリスマスシーズンをワイキキのビーチで過ごしていた。
ぼーっと夕日を眺めながら、思わず「ここに住みたい!」という感情が自然と口をついて出た。仕事に追われていた当時の私にとって、ハワイのゆったりした環境はあまりに最高すぎたのだ。気づいたら夕日なんてそっちのけで思わず手元のスマホでハワイの物件を検索していた。
「た、高すぎる・・・」
検索結果に表示された物件は東京都内よりもずっと高額で、とてもじゃないけど今の私たちには到底買える価格じゃなかった。しかも冷静に考えてみれば、完全に国内ベースで仕事している私たちにとって、今すぐ海外移住するのはそもそも現実的じゃない(笑)
でもハワイに住みたい!と一度思ってしまった感情は簡単には捨てきれない。
うーん、ハワイは無理だとしても、ハワイっぽい場所だったら住めるところがあるんじゃないだろうか。国内にどこか良いところは・・・「あ、それって鎌倉かも!?」
ふと鎌倉の光景が降臨した。去年遊びに行った鎌倉はビーチもあるし山もあった。なんとなく東京よりものんびりした雰囲気もありハワイっぽい気がした。
そうと決まれば即行動! 日本に帰国後すぐに内見予約し1年ぶりに訪れた鎌倉。季節は冬だったしハワイとは雰囲気も違うけれど、すれ違う人たちから感じるそこはかとないユルさがなんとも気持ち良い。やっぱり鎌倉に住もう。
この気持ちが冷めないうちに、スピード重視で決めちゃいたい。庭付き一戸建ても魅力的だけど、土地探しから始めていたらとても時間がかかってしまいそうだ。私は建築家なので、いつか自分の設計で自宅を建ててみたいという夢も持ってはいるけど、いったん今回はマンションに絞って探し始めることにした。ちょっとくらいはリノベーションするかもしれないので間取りや内装は気にせず、立地条件を最重視。いきなり落ち着きすぎる場所に暮らすのはあまりイメージできないし街の賑やかさも楽しみたい。
鎌倉は湿気が大変だと友人から聞いていたので、日当たりと風通しは絶対。そしてやはり海は近くに感じたい、でも津波ハザードは気になるので床が浸水しない高さは欲しい。
どんどん積み上がる条件に我ながら辟易しつつ「こりゃ理想の物件は見つからなそうだぞ」なんて思っていたけど、5件ほど内見したあたりで運よくビビッとくる物件に出会うことができた。私がビビッときた物件は、鎌倉駅まで歩ける距離、バルコニーの広さと窓の大きさ、リノベに自由度がありそうなほぼ正方形の専有空間、南北に窓があり空気が通り抜けることが決め手になった。
今思えば、物件探しをしていた当時はコロナ前かつ移住ブーム直前でもあったので、今よりも物件数が多かったように記憶している。そういう意味で、良い物件に出会えたのはタイミングと運に恵まれたのだと思う。
鎌倉の物件契約と同時に東京の物件も売却した。東京の自宅は築40年のマンションだったが、実際に住まう人(私)が自らの設計でフルリノベーションしたこともあって使いやすく、デザインも自分の「好き」を詰め込んでいた。
竣工してから2年間でありがたいことにたくさんのメディアに掲載いただき、クライアントや友人など多くの人に見てもらえた。ある意味で役目を果たしたともいえる。何よりも大好きなアーティストのMV撮影に使っていただけたことが集大成。
物件を売りに出してからは、購入希望者に対して私自ら自宅に対する思いを熱く推したこともあり、売却は順調に進んだ。売買を同時に執り行い、年号が令和に変わったその日から鎌倉暮らしがスタートした。振り返れば年末に思い立ってから、たった4か月の出来事。暮らす前にヒアリングした多くの人に言われたのは、「週末は道路の混雑がエグい」「大きなスーパーが無いから日々の買い物が不便」「湿気や虫との闘い」などなど。まぁ、それも事実。でもそれ以上に得られるものと比較すると、どれもたいしたことじゃないと思える。
広い道を一本入ると雰囲気のある小道につながったり、散歩がてら新鮮な魚や野菜が街中で買える。湿気は除湿機に頼りっぱなしだけど、虫はマンションなので今のところ困らず。ハワイっぽいかどうかはよくわからないけれど、うん、なかなか良い感じ。
そんなわけで鎌倉にスピード移住した私が、鎌倉暮らし、建築、不動産、街に関するあれこれを綴っていきたいと思います。
小川友紀プロフィール
1980年生まれ。アトリエ系設計事務所に勤務ののち、モヤデザイン一級建築士事務所を設立。住宅や店舗などの設計を手掛ける。2024年からは鎌倉coco-houseに参画し物件探しの段階から設計目線でアドバイスしつつ、不動産業の見習い中。ピラティスを続けていたら人生最高を記録し現在身長168cm。夫と子供の3人暮らし。実家は信州戸隠、海と山を行き来する生活が今はちょうどいい。