移住の動機はひとそれぞれ。家族の都合だったり、自身の夢の実現だったり。東京都出身のT様の場合は「古民家再生」に取り組みたいという大きな目的を持った決断だった。住宅を再生するなら自ら住んでみて実践すること。T様は海と山の環境を求めて鎌倉から大磯、房総半島まで検討を重ねた末にこの斜面を含む600㎡180坪の土地と築50年の中古住宅を手に入れた。いまは東京ベイエリアとのデュアルライフだけれどまもなく完全移住を実践して鎌倉生活がはじまる。
国際観光都市・鎌倉。これまでも中古住宅をリノベーションした住まいに驚かされたケースはたびたびあった。酒蔵を改築した家や細い坂道を登り切った平屋とか、奇想天外な住まいは楽しいものだ。
僕の中ではこのT様邸もそのひとつに加わることになる。鎌倉の観光エリアを離れた谷戸の斜面に建つ築50年、床面積85㎡の中古住宅なのだが、その敷地は斜面をジグザグにたどるように細い階段がいくつもある。樹木はおよそ120本もあるらしい。土地面積は600㎡およそ180坪。オーナーのTさんもしっかり把握していないと笑っている。
オーナーは住宅関連企業でマンション再生などのリノベーション工事を担当する部署にいる。そこでのノウハウはこのリノベには大いに役立つわけだけが、住宅の再生という大きなテーマに正面から取り組みたくて自ら実践してみたいというのが大きなきっかけだった。現在の住まいは東京江東区のベイエリアで、逗子葉山、大磯、はたまた房総半島までが検討範囲だった。車必須の千葉県が外れ、海と山があり東京にも近い「鎌倉」に絞り込まれた。
鎌倉で「中古住宅+リノベーション」のコースは、鎌倉駅西口駅前で開業するCOCO-HOUSEには大好物の案件にちがいない。鎌倉の奥座敷、谷戸の斜面に建つ築50年の中古住宅はTさんにもとっておきの物件だった。築年数の割にしっかりしているのはこの軽量鉄骨2階建ての住宅が大手ハウスメーカーの規格住宅だったこともあり構造に信頼感があることが大きかったと振り返ってくれた。
さらにオーナーのTさんが一級建築士で中古建物や不動産の知識を持ち合わせていたことも大きいだろう。購入に際し、建物の耐久性、傾斜地の安全性、そして図面や法申請書類の有無など浮かび上がる課題を投げかけるたびに即座に情報開示してくれたCOCO-HOUSEの機敏な対応を高く評価していた。
とはいえフルリノベーションとなると大掛かりとなる。1階の玄関部分はすっかり面影もなくスッキリとしたエントランスにとり変わった。区切られていた2部屋は壁を取り除き大きなリビングダイニングに変更。谷戸を見下ろす南西側はこの住まいの最大のビューポイントだからコーナー2面のサッシを活用して明るく開放的に仕上げた。谷戸を見下ろすデッキ部分はポリカーボネートの屋根と木部分を再整備しアウトドアリビングとしてフル活用している。
2階書斎は1階以上に開放的な光景を得るためロッキングチェアを置いて目前の大きな桜の木を眺めることができる。隣の和室は琉球畳を入れ南東面の光をふんだんに取り入れた。
バスルーム、トイレなどの水周りは最新の設備を導入。サッシ・窓ガラスを交換し断熱材を入れることで近年の住宅には必須の断熱性能を高め、2024年12月にリノベーションが完了した。こうしてダイナミックなフルリノベーションにかけた費用はおよそ2,000万円だ。
さてTさんの楽しみはこれからだ。
「新築の家よりも価格のメリットは大きいし暮らし始めてからのライフスタイルに合わせて手を加えればもっと良くなると思います。アイデアはたくさんありますよ」と希望に満ちている。「今後も価値があるのに活用されていない築古建物をリノベーションして古民家カフェやインバウンドの民泊住宅として持続可能な活用を図っていきたい。それも社会貢献だと思っています」
「鎌倉の印象? 移住者も多く、古都の雰囲気が残っているのに思っていたほど敷居も高くなくていいですね。4月からは完全に移住して鎌倉ライフを楽しみたい」と話していただいた。
取材・撮影◎ワイズオフィス 文◎藤原P
Edited by Y’s Office
取材協力◎株式会社COCO-HOUSE (鎌倉市)
施工・写真提供◎株式会社Hachi