相田敬介さん
<家具蔵(株式会社カグラ)代表取締役>
取材・文◎藤原靖久
ポートレート撮影◎山本倫子
取材協力◎株式会社カグラ
”上質なものは上質な時間を過ごす空間を作り、
人の寿命の何倍も輝きを放ち続けると思います。”
*以下敬称略
* 無垢材で家具を作るということ
木材は鉄やアルミニウムなど他の材料に比べて、CO2の排出量が桁外れに少ないことも特徴のひとつだが、家具のものづくりという側面から語る。
「私たちが家具作りに用いる木は、樹齢80年から150年程度のものがほとんど。つまり苗木を植えてから家具材として利用できるほどの木に育つまでには、最低でも80年という年月がかかっているのです。だからこそ、一本一本の木を無駄なく有効に使うこと、そして育った年月と同じだけ使い継がれる家具を作ることで、次世代のための木を育て、貴重な森林資源が永続的に循環するシステムを維持する必要があるのです。また、木材を大切に使うことは、木や自然に対する償いでもあります。長い年月をかけて育った木を伐ってしまうのです。その生命の重みを考えると、簡単に使い捨てられてしまうようなものを作るわけにはいきません。愛着を持って永く使い続けられる家具を、時間と手間をかけて作る。私たちの家具作りの根底には、自然に対する畏敬と木への深い感謝の思いがあります」
* 家具の文化
「ものが高いか安いかの判断基準は、1万円の椅子が価格以上の手をかけている価値があればこれは安いけれど、その逆ならば高い。5万円する椅子がそれ以上の手をかけていて、何十年も使える耐久性があるならば、私は価値があると思います。家具を購入する時はデザインや使い心地も大事ですが、耐久性を見極めることも重要だと思います。家具はそう簡単に買い換えるものではありませんから、初期投資が高くても50年も100年も使えるものであれば、圧倒的に安いということになります」
「家具の造りや技術をお客様にお伝えしたい、納得していただいてものを選んでいただきたい。こうしたことはウェブサイトの情報だけでは伝わらないのです。直接現物を見て、感じていただきたい」
* ニッポンのものづくり
木の価値が高まるにつれ、木材を1ミリ以下にスライスしてエンジニアリングウッドと称する木質系材料に張ったものや、木材の木目を転写した塩化ビニールのものなどが大量生産されて、一般消費者に見極めができない商品があふれてきていることも事実。皮肉にも技術力のある日本だからこそ、それが現実できるのだろうが、本物に触れることが少なくなってきている現状はたしかにある。
家具作りにはおもに堅くてキズがつきにくい広葉樹が使われるが、日本国内では針葉樹が多く〜戦後多く植林されたのは針葉樹で、現状国産の針葉樹が余剰している〜国産の広葉樹だけに頼って家具作りをすることが困難になっている。材料を求めて北米やアフリカに頼らなくてはならない状況にある。これはニッポンの食の自給率問題と酷似している。
「先人が作り上げてきた技術を残していかなければいけません。技術者を育てることが私たちの使命でもあります。いくら素材があっても作る人がいなくなっては、海外で作った製品を仕入れてただ売るだけの国になってしまいます。職人が技術を習得するには10年ではなかなか足りない。20年30年は必要で、そこで技術者を育成していくことが、日本の職人技と木の文化を継承することにもなります」
一方で、日本には「使い捨ての文化がある国」とのレッテルもある。割り箸や爪楊枝など捨てることが前提の文化にもブレーキをかけるべき時が来ているという。