神奈川県藤沢市・N様邸
江ノ島の西、鵠沼海岸は海からの風とふりそそぐ太陽は日常。晴れ渡る空に富士山がそびえる冬も、太平洋高気圧に覆われる夏も、江ノ島さえ霞む梅雨時も、四季折々を快適に過ごせるのは「木の家」の恩恵。大きな吹き抜けと、家族みんなの声が届くリビングとウッドデッキ。「どこよりもこの家が一番」そんな言葉が湘南らしさを表しています。
湘南の海岸線でも鵠沼海岸周辺は起伏が少なく、太陽に一番近い場所と感じることもある。しかし１年のうちには晴れた日もあれあれば、シトシト雨が降り続ける梅雨時や、台風の脅威に晒される日もある。海の近くの自然はアップダウンがとくに激しい。
海岸に続く住宅街の一角に木の外壁の邸が佇んでいる。縦張りのブルー外壁は同色の空に向かうかのようにスマートに映っている。
奥様のご実家もここ湘南にある。ご結婚後は東京での暮らしだったがお子様の誕生をきっかけに自然が多く空が広い神奈川へもどる計画がもちあがった。当初のアパートの暮らしから、鵠沼の中古住宅をリフォームする二世帯住宅のプランだったが、計画途中で一気に建直しプランに変更されることに。
光と風をふんだんに取り入れられる角地で、四角の型の良い土地だ。N様の家づくりのテーマは「光と風の入るリビングがメインの家」だったと振り返る。
鵠沼といえば湘南でも大きな屋敷が並んだ余裕のある土地。その土地の空気を感じて暮らすには「余白」は欠かせない。およそ60坪もあるこの敷地に十分な面積の建物、そして「大きすぎるんじゃないか」と不安に思っていたというウッドデッキも今となっては適切なものだと話します。
エントランスを入ると洗面所とバスルーム、ランドリースペースが集約されて主婦動線を合理的にまとめてある。ふと洗面台に目をやれると、窓越しに庭先の緑が揺れる。おそらく家事の最中で一息つくことを想像したのだろう。毎日の暮らしにちょっとした「余白」を感じる配慮を感じる。
住みはじめてからすでに５年が経つという。たしかに床、天井のパイン材、ウッドデッキのシルバー感はいい感じでおちついている。特段に近代的な設備があるわけでもなくガラス細工やピアノブラックのような金ピカの光沢はない。というよりもその必要性がない。なぜなら「家は見せるためのものではなく住むためのもの」そう家が囁いているようだ。
キッチンはとくに奥様のぶれない主義が伺える。子供たちを育て、食べることが大切と考える主婦の目は、おしゃれ感よりも機能性を優先している。引き出しの深さや鍋、フライパンの大きさに合わせた棚、調味料やまな板の置き場所、忙しいけれど家族の食事を大事にしたい気持ちは緻密な配置を生み出した。
昭和からの広いお屋敷の街並みもここ半世紀も経って小さく分割され、鵠沼の「余白」は幾分薄らいでいるのだろうか。日傘を刺したくなるほどの暑い小径、石垣のある家、海へ急ぐ子供たちの声は遠くなっていく。そんな時代の急速な変化に抗う暮らしがここにある。「余白」のある鵠沼の生活はまだまだここに息づいている。
取材・写真撮影｜藤原書店（ワイズクリエイティブオフィス）
DATA
神奈川県藤沢市N様邸
■敷地面積／215.52㎡（65.19坪）
延床面積／134.09㎡（40.56坪）
1階／73.12㎡（22.12坪）
2階／60.97㎡（18.44坪）
用途地域／第一種低層住居専用地域
構造／木造2階建て
間取り/ 5LDK
設計／三原 栄一（アトリエーワン）、古川知嘉
施工／株式会社バウムスタンフ
家族構成／5人
■MATERIAL
◎外部仕上げ
屋根／ガルバリュウム鋼板
外壁／唐松
◎内部仕上げ
床材／無垢チークフローリング
天井／パイン ホワイト塗装
ドライウォール ビニールクロス
壁／ドライウォール ビニールクロス
BUILDER’S NOTE
中古住宅に住まわれていたN様からリフォームでご相談いただきました。プランをしていく中で新築への思いがふくらみ、人生の子育て時期と仕事のタイミングで新築するなら今なのではとの決断から新築へ移行しました。竣工から５年が経ち、久しぶりにお会いしお話を伺いましたが、とにかく住みやすいとのこと。同じ敷地で中古と新築の違いを体感されているので説得力を感じます。『旅行に行くと今までは中古の家に帰ってくるのが嫌だったけど、今は早く家に帰りたいと思うようになりました。家が一番居心地がいい』この言葉に尽きます。古川知嘉
