どんな時代でも忙しくアップデイトを繰り返す東京。シェフを生業とするご夫婦が子どもの誕生を機に東京脱出、湘南・茅ヶ崎に移住した。ほどなくして、自然を求めてさらに西の大磯町で住まいをつくった。海があって山もある。庭には薪を積む、そんな海辺の暮らしが理想だった。
夫婦の出会いはパティシエとしてフランスで修行していた頃。ほどなくして共に世界的なシェフレストラン「NOBU」で料理を研修し、奥様もパテシエとしてふたりで中目黒でレストランを開いた。
激しくトレンドが渦巻く東京の暮らし。反動的に家族の暮らしを自然のある静かな環境においてみたいと思うのはごく自然だった。男の子が生まれ子育てを考えると移住は必須になった
ご主人がサーフィンが好きなこともあって、湘南での新生活は茅ヶ崎の団地からはじまった。
ほどなくしてもっと自然のある場所で家を建てたい、想いはさらに西の大磯方面に向いていく。きっかけは海だったが、山の自然環境も魅力的に映りはじめた。土地探しも海の近くから山の方へ焦点が移っていく。
花水川を境に平塚から大磯町に入ると景色は一変する。高原に訪れたような駅、鳥のさえずり、ゆったりとした時間の流れ。ここに住む人たちはこの空気感を生活の中にすっかり取り込んでいる。むしろ、このスピード感を楽しめないと大磯暮らしは成立しないのかもしれない。
「木の家が好き」と話すご主人、土地を決めると迷うことなく「海辺の工務店」バウムスタンフに家づくりを依頼することを決めた。設計者は大磯で暮らし、環境を熟知した女性建築家が担当した。
山側の傾斜地に建つM邸。そのファサードの真ん中、木の扉は奥様の夢だった焼き菓子のお店「ルリビタキ」の入り口だ。乾いた風、青空、潮騒、そんな湘南の自然環境にいちばん似合うのはアメリカ西海岸で採用されるウエスタンレッドシダー(米杉)のサイディングだろう。時間の経過とともにシルバーグレーに輝いていく端正な表情は湘南住宅のテッパンのひとつ。
室内に目を向けると、ツーバーフォー工法を採用しエントランスの大きな吹き抜けが開放感をつくり出している。リビングには薪ストーブ、庭にはたっぷりと積まれた薪。無垢の床材に白い壁。
施主が自由に暮らしを楽しむために、施主のライフタイルを尊重する。故にシンプルな空間を提供すること。それが湘南の注文住宅の哲学だと思う。余計なものは加えない、施主自身が手を加えやすいシンプルな家だ。
この邸宅がどんな風に表情を変えていくのか。5年後、10年後、歳を重ねた家族がここに佇む姿は、きっとこの家に似合っていることだろう。
DATA
神奈川県大磯町M様邸
·敷地面積/233.72㎡(70.70坪)
·建築面積/71.75㎡(21.70坪)
延床面積/107.12㎡(32.40坪)
· 1階/65.72㎡(19.88坪)
· 2階/41.40㎡(12.52坪)
·構造/木造2階建て 3LDK
·設計・施工/株式会社バウムスタンフ
·家族構成/3人(子ども1人)
MATERIAL
·◎外部仕上げ
· 屋根/ガルバリウム
· 外壁/米杉(下見板)一部モルタル仕上げ
·◎内部仕上げ
· 床材/無垢チーク
· 壁/ビニールクロス
· 天井/和杉+ビニールクロス
BUILDER’S NOTE:お子様ができ、茅ヶ崎に移り住まわれたご家族はより自然豊かな大磯で土地探しを始められました。ご主人はサーフィンを奥様は夢の焼き菓子のお店を併設したいとのご要望。当初は海の近くを探されていましたが、色々な土地を見るうちに大磯の山側を希望されました。店舗は小さくまとめ、プライバシーを守りながらも広い庭と周辺の山々が望める空間になりました。自然の移り変わりと共に過ごす大磯生活を楽しまれています。