海沿いに住むためには、それなりの覚悟がいるんだよ
横須賀・佐島は成功者たちが自宅や別荘ライフを過ごす不思議な港町だ。
湘南の喧騒から逃れた小さな港町に鳥が羽を休めるような魅力があるのだろう。
海を愛し、ヨットに恋したオーシャンマン高須徹さんの住まいも、ここにある。
ヨットのキャビンをそのまま陸揚げしたようなデザインの佇まいがこの街によく似合う。ものづくりが好きな海の男の大きな作品だ。
「ヨットは18歳くらいからやっていて、いつか自分の船を持ちたいという夢がありました。大学2年の時に後輩と二人で絨毯クリーニングの仕事をはじめてディンギーを手に入れたのがはじまりです。シーマン(海の男)に対する強い憧れがあって、レースでよく来ていた湘南はヨットのメッカで、とくに佐島マリーナは葉山やシーボニアなどと並ぶ憧れもあり、また馴染みもありました」
佐島港は決して大きくはない港町。海の水も綺麗で、どんなに荒れても静かな港だ。生活者も多く魚介や野菜なども豊富にある。
静かなヨットライフを過ごすには最適な街なんだろう。
「この家の用途はX-cabinの佐島ベースという位置付けで、キャンピントレーラーのショールームなんです。部屋は4部屋。お客様を迎えたり社員の福利厚生施設でもあります」と話す。
生まれ育った名古屋からグアムでの生活、イルミネーションとの出会い、事業の成功、セミリタイヤ、新しいキャンピントレーラーへの取り組み。
佐島ライフはその集大成だ。
「海沿いに住むためには、それなりの覚悟がいる。船も痛むし家も痛みます。心配事がいっぱいありますが、それを置いてもかけがえのないものが得られる」と断言する。
海沿いに住んで家が傷むことは(設計施工を担当した)スターホームのせいにはできない。
ただ家づくりへのこだわりは随所にある。
「僕が毎晩のように夜中に設計者に注文メールを送る。ここはどうするとか、手すりをなにでつくるのか、どんな木を選ぶのか。手摺の間隔はどのくらいにするのかとかね。それは自分の楽しみで、受けた人は毎日苦慮するでしょう。でもでき上がった時には感動だし、それが設計者の経験にもなっているはずです」と笑い飛ばす。
丁寧に豆から挽いたコーヒーを入れながら話していただく人生のストーリーは驚きの連続、そして楽しいもの。
「今日はいい日だったなと思う、1日1日のページの積み重ねた厚みが、そのひとの人間としての厚みだと思っています。忙しいコンベンションがようやく終わって、おいしものを探して食べて、みんなでワイワイ楽しんだり、反省会があったり。人生にはそうした起伏があったほうがいい。住むところも都会に住むことも便利でいいし、こんな風にゆるく住むのも人として生きている証なんだろうと思っています」
プロフィール欄にもあるように、今では高須さんを成功に導いたイルミネーション事業の最前線から身を引き、次なるキャンピングトレーラー事業に挑戦している現在。
「毎日すごく幸せであることは事実。僕と一緒に仕事をしていい人生だったなあと思ってくれる人たちと一緒に仕事をしていたい。いつもファミリーみたいな会社でありたいと思っています」
大海原に出て海を愛する人は、常に用心深く、けれど一瞬一瞬の出来事を楽しんでいる。
まだ若造である私には、海の先輩たちとの会話は珠玉の時間であり、楽しくおわりのないものなんである。
高須徹◎1954年名古屋市出身68歳。学生時代を東京で過ごし、36歳くらいまでは造園業、ゴルフ場設計や外構工事などに従事する。その後海好きが昂じて1年の多くをグアムで過ごし、ここで多くの人たちとの邂逅が生まれる。「光は人をこんなに喜ばせる力があるのか」と、人生を成功に導いたイルミネーションのデザイン、制作の世界に入る。主業として成功をおさめ(現在のX-ECO)、表舞台を退いた後、こんどはデュッセルドルフでキャンピングトレーラーと出会い、新たな事業展開が始まっている(X-CABIN)。現在、この2つのブランドを持つ株式会社エフェクトメイジの顧問として東京と名古屋を往来するライフスタイルだ。
<取材協力>
スターホーム 株式会社
〒240-0115 神奈川県三浦郡葉山町上山口1431-1
撮影・取材・編集◎藤原靖久 住宅写真提供◎スターホーム(東涌宏和)