就職や結婚、出産、転勤。人は折りに触れ住まいを考え、そしていつかは「そろそろ終の住処へ」とたどり着きます。東京・銀座で長年仕事を持ち続けるNさんは、直前まで目黒のマンションにお住まいでした。
「そろそろ静かな環境で暮らしてみたい」
そして、いつか写真で見た「森を背景にしたアメリカの三角屋根の木の家」が気になっていました。山の自然があって朝の散歩が楽しくなる、そんな住環境をイメージしていたのです。
熱海、湯河原、小田原と土地探しははじまったけれど、どこもこれといった決め手がありません。そんな折、2020年はじめからコロナ禍が社会を一変させます。都会の経済は停滞を余儀なくされ、Nさんにも移住に真剣に取り組む時間が生まれることになったのです。当初の予定から4年ほど経ったころ、鎌倉のある土地情報が入ったのですが、縁というのは不思議で数日後にその近くでこの土地と出会うことになります。
耐震強度の高いSE構法に興味を持ち始め、逗子の工務店(株)キリガヤを知ることに。お家と庭を同時にプロデュースしてくれるということも強みで、他社との比較なしで設計・施工を依頼することになりました。
当初は1階だけで寝室、風呂などの生活が完結できるように平屋を想定していましたが、住宅の条件もあって小さな2階建を採用することに。
住まい手の意図が明確だったことで設計者との作業、設計、素材の採用、意匠などの課題もスムーズに決まりました。
こうして完成したN邸は、丹念に手入れされた庭のアプローチの先には、朝日に照らされ木の外壁が光り周辺の環境にもよく調和しています。玄関の扉を開くとそこは仕切りのないリビングとダイニング。高い断熱性があるからこその大きな空間です。
ペアの椅子を置いたリラックススペース、ダイニング、キッチン、さらに寝室とすすみ、バスルームを通って回遊できる最小限の動線。まるで、どこか山のオーベルジュで過ごしているように、静かだけれど飽きのこない楽しさを味わうような感覚。
随所で感じる木のぬくもりは、静謐な時間を生み出しています。幅広のパインの床材は夏には裸足が心地よさそうだし、ほとんどの木材には柿渋塗装が施されており、薄灰色の壁との調和が弾む心を抑えてくれます。
東京で暮らしていたころから続く朝の散歩。いうまでもなく、ここには小川や小径をたどって散策するには最良の環境があります。鎌倉の自然を満喫し、自らを解放してくれる住まい。都会を離れ新しい生活を楽しみたいからと、Nさんの生活は意外に忙しいようです。
「今日も午後から電車で銀座に向かいます」
もの静かなかたとお見受けするけれども、住まいの話をされる時、その声は心なしか弾んでいるように聞こえます。
BUILDER’S NOTE
N様のご要望は『山小屋のような小さな家がほしい』とのことでした。最初からイメージが明確でしたから、この住まいになるべくしてなったような気がします。ファーストプランからほぼ変更なく完成に至りました。高さを抑えた、板張りの外観、アプローチの庭の緑が、街並みに馴染んでいきます。内部は、外観とは一変してシンプルで落ち着いたインテリアとなっています。置かれる家具や、小物が引きたち、光の陰影がとても印象的な空間となりました。
INFORMATION
神奈川県 鎌倉市 N邸
■敷地面積/150.00(45.37坪)
延床面積/85.30㎡(25.80坪)
1階/51.76㎡(15.65坪)
2階/33.54㎡(10.15坪)
構造/木造2階建て(SE構法)
間取り/1LDK+フリースペース+納戸
設計・施工/株式会社キリガヤ
■MATERIAL
◎ 外部仕上げ
屋根/ジンカリウム鋼板 砂付
外壁/杉 ボード&バテン ウッドロングエコ塗布
◎内部仕上げ
床材/パイン20㎜
壁/天然スタイル土壁+シナベニヤ 柿渋塗装
天井/天然スタイル土壁