コロナ禍前から都会のひとびとの憧れの移住地、湘南。住宅を建て移住する人の数は加速するいっぽうです。人それぞれに個性があるように、湘南の家づくりも百花繚乱。代々引き継がれる湘南の暮らしを見つめていると家づくりに、ある法則があることに気づきます。
温暖化の影響か増加する自然災害に立ち向かうための強い構造体。木や自然の素材を多く用ること、奇をてらわず街並みに溶けこむ外観。非日常的な暮らし方を楽しむ工夫。
今回は湘南の暮らしの流儀を具現化した邸として、葉山町に23年間矍鑠(かくしゃく)と佇む梶川邸を拝見します。
お話し◎梶川精二さん(葉山町) 聞き手◎桐ヶ谷郁人さん(株式会社キリガヤ 代表取締役社長)
JR東逗子駅にある「キリガヤ湘南モデルハウス」が完成したのが23年前。梶川家と桐ヶ谷家(現社長は6代目)とは旧来からの交流があり、モデルハウス完成後の受注案件第1号となった。
梶川氏 当時の桐ヶ谷覚社長(現キリガヤ会長)と私は青年会議所で一緒に活動をしていたのですが、その時に「本物の木の家が少なくなっている。建材ばかりの家ではダメだ。これからの時代を見越して住宅建築をはじめたい」 と熱く語られたのがこの家を建てることになったはじまりです。
青年会議所のメンバーをはじめ、周りもみんな大賛成だったのですが、まだ第一棟目の受注にはいたっていないという話でした。
その話はわたしの父にも伝わって、「第1号だったら縁起がいいし、面白いからいいじゃないか。せっかくだからキリガヤさんが建てたい家を建ててみなよ」となったわけです。
当時提案されたスケッチがいまも残っていますよ。ほぼそのまま建てられていて、電球ひとつまでキリガヤさんが決めてくれました。
桐ヶ谷氏 弊社は材木屋として長年のノウハウはありましたが、当時はまだ工務店としては駆け出しでしたから、受注を頂くのは大変だったと思います。しかし、お父様は豪気な方だったのですね。
梶川氏 父はキリガヤのモデルハウスを実際に見ていたので、つべこべいうこともなかったようです。
私も建築計画書中に「暖房用にガス管を入れといてくれよ」と要望したところ、「これだけで大丈夫だよ」といわれて、薪ストーブが設置されることを知ったくらいです(笑) ホントにお任せしていました。
その信頼に応えてもらえているなと思ったのは上棟式の時ですね。太い柱が建ち並び、しっかりとした構造体が際立っていたのを思い出します。それは見事でしたよ。それだけ見えなくなるところも妥協なく仕事をしてくれているという実感でした。キリガヤの社員や職人さんも力が入っていましたね。
桐ヶ谷氏 いま見ても、頑丈な構造が醸し出す無駄のない空間には圧倒されますね。まさしくキリガヤが考える建てたい家がここにあります。ここでお子様を育て、ペットも飼っていて、これだけ長くきれいに保っていただいていることがとても嬉しいです。
湘南の家づくりでは、災害に強い堅牢な構造であること。自然との共存、質素で静かな暮らし。家の外と内側をつなぐアウトドアリビングを設けるなど、都会では実現できない生活感が大切だといわれています。
桐ヶ谷氏 湘南エリアの中でも逗子葉山は特に自然豊かな山々が特徴的です。
家の外を見たときに緑が見えるというのはこのエリア特有の光景でしょう。
家づくりにも木のぬくもりを取り入れることで、エリアの特徴と相まって 家の中も気持ちが良くなると思います。
梶川氏 葉山は御用邸のある一色、堀内が中心地で、ここ下山口辺りはありがたいことに緑が多く残っています。町と村という対照的なイメージです。以前はスーパーもなかったしずいぶんと田舎でした。
湘南には海はもちろん、丘(山ほど高くないので)もある。東京まで1時間でこれだけ環境が整っているところはそうないのではないでしょうか。そこに身を置けるとしたらとても贅沢です。
梶川氏奥さま 私ももうここでいいです。移住しようかといわれても「いいえ、私は葉山でいい」と言うと思います。
桐ヶ谷氏 わたしもずっとここにいるので日頃は気がつかないですが、逗子で生まれ育ってから、名古屋や三重県や海外で暮らして久しぶりに帰ってきたときは、湾岸を走る毎日がドライブしているようでした(笑)。
梶川氏 家づくりも変わってきたように思います。いままでの概念では南向きに広い庭をつくっていましたが、最近は地球温暖化が激しいですから、日差しが強くてそれどころではない。
夏は日陰がありがたい。南北という方角に対する執着心はもうなくなりました。地域、周辺の環境に正しく建てられていれば日陰だろうと、価値は永続的に続くと思います。
材料にしても外壁の木の板張りは暑さを和らげてくれる。それをこの家で実感します。
当時からこういう家にしてもらえたのは良かったなと思っています。
桐ヶ谷氏 そうですね、近年は家の性能がすごく良くなっています。ロケーションによっては、北側にリビングをもっていって、南からの光は天井から取るというケースもあります。
また薪ストーブは火を楽しみながら体の芯まで温まるので今後もおススメしていきたいですね。街中では設置条件はあるので、近隣のことを考えればペレットストーブもいいですね。23年間住んでこられてどんなことをお感じですか?
梶川氏 高さに変化をもたらす勾配天井や、吹抜を通して射し込む光など、天井の高さによる変化は生活する上でも有効な開放感です。特に吹抜けにおける薪ストーブの配置、煙突のバランスがとてもよく、家中がすぐに温まって、当時からよく考えられていたと思います。
梶川精二さんご夫妻◎ ご主人は葉山生れ葉山育ち、現在70歳。会社役員。奥さまは東京出身。二人のお子さまはすでに独立し現在はふたり暮らし。趣味はボートヨット、釣り、60歳から始めたゴルフ。