まさか自分がこの建物を語る日が来るなんて、いまだにちょっと信じられないのです。今回は藤沢駅周辺の再開発の中に隠れた、忘れたくない場所のお話です。
心のどこかで「ここは自分の場所だ」って勝手に思い込んでいる場所ってありませんか。それは街の中の小さな一部だったり、よく行くお店のいつもの席だったり。そこはみんなに秘密にしておきたくなる、そんな空気が漂っているのです。私にとってのそれが藤沢駅前の3棟の古いビルに囲まれた中庭、通称ハゼの木広場。
秘密はこの中庭に隠れているので通りからは見えません。ここに篭ってみんな何かに取り憑かれたようにたばこを吸うんですね。今ではタバコとお別れをしてしまいましたが、当時はここでよくタバコをふかしていました。誤解を恐れずに言うならば、なかなか空気の悪い喫煙場所だったと思うのですが、それでも居心地が良いのです。私同様、そこに佇むスモーカー達もなかなかここを立ち去ろうとはしません。
どうしてみんなここにいるのか。その答えはないんだと思います。ただ単純に、ここが好きなんだと思います。
ずっと残しておきたい、この鉄筋コンクリートのジャングルを見上げる。四角く切り取られた空の青はあまりにも眩しく、しばらくはここに隠れていようかと思ってしまう。足元に目を移すと、そこには一本のハゼの木が空気の悪い中庭の中にある。一所懸命にこの中庭の吹き抜けの先に伸びようとしているのだろうか。よくやってるなと関心。そうかと思うと、その隣にでっかい鳥小屋のようなツリーハウスのような摩訶不思議な建造物はテレビだったりして。
人間模様もまた面白い。靴屋に用事もなく出入りする人やベンチがあるのに地べたに座る人。仕事の電話もまる聞こえ。クレーム対応している人やさぼっている人、永遠に誰かの愚痴を話している人。
こんな様々な人間模様を包み込んでくれたこの建物も、ついに取り壊しの再開発計画が発表されました。あまりにも当たり前にあるこの空間がなくなってしまうことで、心にぽっかり穴が空き、しばらく中庭で空を見上げたくなります。
解体されるまでの間、このビルを使いこなしてくれる方を鎌倉R不動産でも募集させていただく予定です。現時点で3年間は利用可能ですが、その後は解体決定まで。
昭和40年から続いたこのビル、その昔は屋上に観覧車まであったとか。最近はこの古い建物に合わせて、建物名のロゴもレトロなテイストに整えて、新しく(?)レトロな雰囲気が増強されました。エスカレーターや階段室などはいい感じにリアルレトロなので、実にマッチしています。これに合わせて、ビル全体の宣伝事業やLINE@など新しい広告展開も挑戦されています。
花火大会の終盤みたいに大輪の一花を咲かせるべく、最後の企みをどなたかとご一緒したいなと思います。
リポート:小松啓さん(鎌倉R不動産代表取締役)