この家のオーナーはウィークエンドにだけ戻ってくる。週のほとんどは東京で都市再開発に関わる重要なお仕事に取り組んでいるそうだ。
趣味は学生時代から体に海水が染み込んでいるサーフィン。エネルギッシュに活動する平日を切り替えて、週末は湘南の海に戻る理想的な暮らし方。
大学を卒業してヨーロッパからアメリカ、最後はハワイにたどり着いたという旅に出た。センスのいいリゾート感覚はその経験の中で養われたようだけれど、旅には不要なものは持たず、常に身軽でなければならない、そんな信条が、この家づくりにも多少なりとも影響を与えているように見て取れた。
東京には奥様と成人した大きなお子様が暮らしている。だから週末はひとりで気ままにこの家に戻ってくる。極上なホテルのように。
1階は土間からはじまる。訪れる人にはどこで靴を脱ぐのか戸惑う空間がなんとも湘南らしい。(実際著者は叱られることになったのである)。当然のごとくサーフボードや自転車、遊び道具がいつでも出動できる体勢にあるから道具の持ち出しにストレスがない。そして猫足のバスタブとトイレ、それだけ。
2階は趣をガラリと変えて海っぽさを演出したリビング&ベッドルーム。2つの空間を遮るものは背の低いガラスブロックだけ。仕切りのない大きな空間の中にすべての機能を収めてある。
あなたが家を作るとなったらどんなプランを描くだろうか?
趣味の世界を重要視して間取りを考えるかもしれないし、どうしても家族全員の意見も取り入れなければならないこともある。そうしてみるとT邸のようなコンセプトの「決め打ち」はなかなか決断できるものではない。
そう、この家の素晴らしさは「潔さ」だろう。
家は人生を映すものなのか。