このエッセイも5回目になるので、良いことばかりでなく、移住して戸惑ったことにも触れておこうと思う。
「東京」の延長のような感覚で逗子へと引っ越してみたが、東京の生活に慣れてしまっていると不便に感じる部分がやはりある。
例えば飲食店の営業時間。都内に住んでいた頃は、ファミレスで朝まで原稿を書く、ということがわりと頻繁にあった。だが逗子には、いや、お隣の葉山・鎌倉までエリアを広げてみても、朝までやっているファミレスはない。
昼間に仕事をするか家で仕事をすればいいだけの話ではあるが、深夜のファミレスでフライドポテトやあんみつなど注文しながらダラダラと仕事するのは嫌いではないので、少し寂しく思ったりする。
ファミレスだけではなく、夜22時頃を過ぎて何か食べに行こうと思う時には選択肢がかなり限られる。コロナ禍を経て飲食店の営業時間は短縮傾向にある上、個人店ならではのユルさもありそうだ。おそらく「お客さん来ないしもう閉めよう」ということなのだろう。ウェブなどに提示されている営業時間内であっても「今日はもう終わり」と断られる。もちろん、このような従業員優先の飲食店が増えることは、社会全体で見れば歓迎されるべきことだし、私の空腹より優先すべきことであるのも間違いない。24時間営業をやめたコンビニがあるのも、逗子らしいなと思う。
もう一つはなんといっても交通事情だろう。
神奈川県民の通勤・通学時間の平均は往復1時間40分(2021年の社会生活基本調査による)で、全国でもっとも長いというのは有名な話。都内との行き来に疲弊することはあるが、これは引っ越す前から想定内のことだ。
それよりも、暮らしていて小さなストレスになるのは、車の交通マナーについてだ。逗子や鎌倉のあたり、基本的に道が狭いわりに交通量が多い(そのわりにみんなやたらと大きい車に乗りたがる)。
歩道の幅は、人がすれ違うのが難しいほど狭く、すれ違う人が車道に降りる。車道に降りた人を避けて自転車が通る。それをさらに避けて車が通る。地元民だけでなく観光客も多い土地柄なので何とも言えないが、全体的に交通マナーは良くないと感じる。横断歩道で待っていても止まってくれる車は少ないし、雨の時など轍に溜まった水を思いっきりかけられたことが何度かある。犬の散歩をしていても、狭い道を車が通るたび、リードを引き寄せて道の端っこに身を縮めることになる。その横をスピードを出して通り過ぎていかれると、大きなため息が出る。
タクシー事情についても不便に感じることが多い。流しているタクシーを捕まえよう、などというのはまずもって通用しない。帰り道、歩き疲れて途中でタクシーを捕まえようとし、結局捕まらないまま家までたどり着いたこともある。
一度、海外出張の時に空港行きの始発に乗らなければいけない時があった。スーツケースを抱えしかも雨の予報だったので駅までタクシーで向かうことにしたが、近場のタクシー会社の営業時間はどこも朝6時から。結局かなり離れたタクシー会社を予約せざるを得ず、迎車料金がかなりかさんだ。
アプリを開けば24時間いつでもタクシーを呼べる、という感覚でいると痛い目をみる。
とまぁグチグチと書き連ねてはきたが、西施にも醜なる所有り。人だって土地だってパーフェクトなんて存在しない。不便さを上回る魅力があるからこそ、逗子生活は早5年目を迎えた。