F様は東京都世田谷区から開成町への移住です。結婚してわずか2ヶ月後に緊急事態宣言が発令、そのままコロナ禍に突入。職場に近く便利なマンションでしたが通勤がない生活が普通となったことで不動産会社のフリーリーデザインボックス(FDB)に相談されたことが移住と家づくりのスタートでした。当初の土地探しの候補地は横浜や湘南方面でしたが、暮らしのイメージができていたF様は建物コストを中心に配分、土地のコストを下げてでも建物にお金をかけようという予算の置き方を考えたのでした。そして行き着いたのは移住で活気に湧く神奈川県開成町でした。お家が完成して約2年半、あらためて家づくりの経緯を振り返っていただきます。
施主F様 コロナ禍で家づくりを始めましたが、まずハウスメーカーもいくつか相談に行きましたが、具体的なお金の話がないまま計画が進んでいくのでどうしても話が噛み合わない。そんな時にFDBさんに相談したのが始まりです。
当山(KIBARの家代表兼FDB取締役) F様の前に開成町に移住されたお施主様(H様)がいらっしゃったので、この街の良さは知っていました。そこで土地のコストを考えてこの土地をご紹介させていただきましたが、窓からのこの景色はまず僕らの一押しでした。するとその場で近くのファミレスに行って即お申込み、そんな流れでした(笑)。F様がやりたいこともたくさんあったので、最初から予算を土地と建物で振り分けていて、できるだけ建物に予算を確保しておきました。建物についてもKIBARIのコンセプトはお話ししていました。
F様 木の家はまったく検討の中に入っていなかったのですが、H様邸を見学してすぐに「これがいいよね!」となったのです。家の雰囲気と「木を使いながら植林する資源の循環」というコンセプトがとてもいいなあと思いました。それに家づくりには予算ありきだったので、それからあとはほぼお任せになりました。
宮﨑(KIBARI設計担当) 北側が調整区域で家が建たないので、北側に広がる田んぼと山並みの景色を最大限に生かすプランとして2階リビング案を考えました。1階に関しては街の人との接点をつくりたいと要望されていたので、建物も道路からあまり奥に下がるよりむしろ建物を道路に近づけました。玄関と併用の広めの土間と土間つながりの屋外デッキには通りを歩くご近所さんが自由に使えるようにベンチを設けました。
F様 建物を道路に近づけて建てたのでリビングからは通りを気にせずに景色が楽しめます。開放的ですが外から見られている感じはまったくないです。1年を通して田んぼの風景が変わっていくのがいちばんの楽しみです。田植えの前は田んぼに水が張られ一面湖のようになって、田植えが終わると緑色の苗から黄金色の稲穂へと変わっていきます。お客様も皆ずっと景色を眺めていて帰らないほどです(笑)。
宮﨑 目指す方向が同じだったので、ご提案に対しておふたりとはほとんどズレがなかったと思います。
F様 こんな生活がしたいとお伝えして、ここは何メートルがいいというような設計の具体的な要望は僕らからは出さないほうがいいと思っていました。
F様(奥様)餅屋は餅屋なので専門的な部分はプロに任せて大きな方向性が共有できていれば素人が口を出さないほうがいいと思いました。宮崎さんの設計された家をいくつか見ていたので信頼と絶対的な安心感がありました。
どんな生活を望んでいたのですか?
F様 景色を眺めながらのんびりと暮らす。いわゆる田舎暮しへの憧れです。東京でもいくつか家は見ていたのですが、どうしても生活がイメージできなかったのです。
家づくりの過程で楽しかったことはありますか?
F様 やっぱりいちばん最初のプランを見た時ですね。それと3箇所から見えるんですが、花火がどんなふうに見られるかを何度もシュミレーションした時ですね。基礎ができて柱が立ち窓の大きさとかを見てびっくりしました。建ち始めてからはテンションが上がりっぱなしでした(笑)。現場を見に行こう!と突然出かけたりもしました。
当山 家づくりが終わるとレス感がうまれるといいますね。
F様 それは確かにありました。もっともっと打ち合わせしたかったなと思いました。完成が少しさみしいくらいの感覚です(笑)。
2年間住んでみて良かったと思うことはありますか
F様 この家は建てる前から周りの人たちから注目していただいていたんです。何が建つのだろうと期待していただき、それが会話のきっかけにもなりました。それと人が何人来ても居場所のある家ですね。いつもだれもがどこかに居られる、居場所がたくさんある感じがします。それは設計の段階で想像もしてなかったのですが住みはじめてみて感じたことです。逆に今更ながら庭はちゃんとプランをつくっておけばよかったなと思いましたが。
宮﨑 それは嬉しいですね。「居場所をたくさんつくる」というのはKIBARIの重要なテーマなのです。家族の中でもいろいろな状況や成長に合わせてそれぞれの居場所があることはとても大事だと思います。
数値に出てこない住み心地はいかがですか?
F様(奥様) すごく住みやすいですね。冬は1階のガスストーブ1台で家の中はポカポカです。夏場は窓を開ければ北の山からの風が涼しくて快適です。エアコンもあまり使いません。
F様 日中は日差しの強い日でも軒が深いので室内が柔らかい光で満たされています。一年を通してとても明るいです。夜は天井面を照らす間接照明をメインに計画してもらったので落ち着いた明るさの中で暮らしています。夜にはちゃんと暗くなってくれるのは人間のリズムに大切ですね。この子も情緒が安定すると思います。山の方は真っ暗ですが東名高速が綺麗に照らされます。一年を通してとても明るいです。また防音がすごいですね。開放的なのに落ち着いていてちゃんと居心地がいいです。
引っ越しをされて2年半くらいが経ちましたが生活はどう変わりましたか?
F様 この街の人よりもすっかり落ち着いた感じがします(笑)。 そもそも開成町ってどこにあるんだろうと思っていましたがとても住みやすい街でした。今、開成町は人口の半分が移住者になったのです。うちの周りも移住者組の方が多かったので自分たちも移住してきたという感覚がなく自然と街に溶け込めた気がします。あとすごく小さな街ですが小学校が2つもあるんです。こどもが多いのは街の未来を感じていいですね。
引っ越してきた時は IT の仕事をしていましたがもっと街に関わる仕事はないかということを模索していました。よく友人が遊びに来てくれますが、開成町にはこれといったお土産がないからみんな小田原のお土産を買って帰るんです。それって寂しいですよね。ならば自分たちで「街のお土産をつくろう」と思い、家が完成したあとに家と同じデザインでチョコレート工房をつくり、そこを発信拠点に街との関わりを持ちながらチョコレートの製造を始めました。
まったくのゼロから勉強して、今はもうほとんどの時間をチョコレートづくりに費やしています。これもチョコレートの製造に関わるフェアトレードみたいなことも考えた結果です。街のことも考えながらもうすこし大きな社会問題にも取り組めることがあるのではないかと思っています。
F様(奥様) 東京にいるときは隣人すら知らないマンション生活でしたが、ここに住んでから人に会う機会が増えたと思います。家や工房をきっかけに街の人たちから話しかけられることも多いです。
今後F様のあとに続く移住者に対してメッセージがあれば
F様 今の時代はスペックとか間取りなどの家づくりの情報はネット上にいっぱいあって簡単に手に入るんですが、自分たちの生活イメージをしっかり持つことが大切かなと思います。家づくりの専門的な部分はプロに任せてあまり口は出さない(笑)。専門家との信頼感が大切ですね。施主はもっと自分たちのライフスタイルの内側に目を向けることが大切かなと思います。わたしたちは信頼することができたから納得のいく家づくりができたと思います。
当山 この人に任せてもいいと思えること、お互いが親密に話せることが大切だと思います。今日はありがとうございました。
Information
敷地面積/227.95㎡(69.07坪)
延床面積/106.81㎡(32.36坪)
1階/52.99㎡(16.06坪)
2階/53.82㎡(16.3坪)
構造/木造2階建3LDK +土間
土地探し/(株)フリーリーデザインボックス
設計/(株)KIBARIの家
施工/(株)バウムスタンフ
家族構成/3人(こども1人+猫2匹)
Material
◎外部仕上げ
屋根/ガルバリウム鋼板縦ハゼ葺き
外壁/吹付、カラマツ
◎内部仕上げ
床材/オーク無垢フローリング