ゲスト:禅建築事務所 有限会社 前場靖弘さん
湘南の暮らし」とはどんなものか? 連載第1回目のゲストは湘南建築のレジェンド前場康弘さん。猪俣氏との共通点は自由な校風で多数の有名人を輩出している藤沢市の私学「湘南学園」でした。
私はいまでも湘南学園で学んだこと、あの環境で育ったことがとても大きかったと思っています。海があり緑もふんだんにあるという環境で、遊ぶ場所は海や砂の上。校舎自体がまだ木造で松ぼっくりがたくさん落ちていたり、自然の中で育ったことが大きく影響しています。
自由で個性を伸ばしていく教育環境の中で、それぞれの感性が磨かれて多くの有名人を輩出しきたんだと思います。
湘南は多様性を大切にしていて、移住者に対しても基本的にウエルカムです。南の島的な空気感がありますね。その点では仕事に専念するにはあまり良い場所ではないかもしれないですが(笑)。
横浜や埼玉では家づくりはハウスメーカーか建売業者がメインですが、湘南は弊社くらいの規模の個性的な建築会社が中心になって家を建てている特別な地域です。職人さんも地元の人たちばかりですから、直接的な触れ合いがあり距離的にも近くていい関係にある。地元の工務店で家を建てた方がいい地域です。
工務店も職人さんも地元だから「MADE in湘南」ということです。施主対会社ではなく、施主対職人のお付き合いで土着性を持って仕事をしています。
前場靖弘/まえばやすひろ●1953年藤沢市出身、祖父の時代から湘南で育った湘南建築のレジェンド的存在。日本大学生産工学部建築工学科卒。27歳で入社した工務店でツーバイフォー建築を体得して「禅建築事務所(現在28期)」を設立、米杉にとどまらず国産信州カラマツを素材とした新時代の湘南らしい木の家を多数手がけている。
湘南の家づくりに大きく貢献してきた木の素材、米杉(ウエスタンレッドシダー)も時代の変化によって価格や不具合などいくつかの課題を抱えている。自動車が内燃機エンジンから電気自動車に取って代わられるように、日本の住環境に適応し、林業の再生にも貢献できる信州カラマツなどの国産材が大きくピックアップされはじめています。
鉄だとか金属はどうしたって潮風に弱いわけですから、潮に一番強い素材は木なんです。だからといってオールステンレスでは味気がないですからその意味でも海のそばでは木が一番の素材だと思っています。
私は木が大好きで、長年現場も見てきましたが木には表と裏で乾燥度についても違いがあることが課題だったのです。米杉(ウエスタンレッドシダー)の反りなどの課題を話し合っていた時にこの目の使い方のアイデア技術(特許取得)が注目され、さらに長野県の信州カラマツを採用する「カラマツ T&Tパネル」が実現しました。
長年米杉の板を使ってきたんですが、北米やカナダではなんでもないことでも日本人の感覚では木の性質によって横張りに反りが多くなかなかクリアできない問題がありました。木の表面には表(スムース)と裏(ラフ)があって、本来海外ではラフの方が表という感覚がありますが、日本には古くからカンナをかけたようなスムース面が表面という意識がありますが、カラマツは木裏を表にしても問題がない。この辺は実際に木を触ってきた人間でないとわからないことなんですが。
木板がある程度反ることは仕方がないということを前提に信州カラマツを採用しました。カラマツは昔から杭や電信柱などに使用されるほど水や土に強い素材です。T&Tパネルは木が反るという性質を逆手にとってT字型にして互い違いに使ってはどうかという考え方です。
工業製品のサイディングのデメリットは新製品の開発によって在庫がなくなることです。一部が損傷したりすると在庫がなく差し替えができません。ならば使う材料は木やモルタル(セメント)などの自然にある素材にしておけば将来的にも苦労はないだろうということです。
最近では米杉も輸入材として価格が高くなってきていますから信州カラマツも価格的に競合してきてお客様の理解も得やすくなりました。ぜひ体験してみていただきたいと思います。
猪俣成人/いのまたしげと●平塚市出身。藤沢市「湘南学園」で青春時代を過ごす。学生時代から音楽に目覚め大学在学中にGS「シェリフ」を結成。TV、ラジオ、CMなどで活躍。その後湘南ミサワホーム不動産などで役職を歴任した不動産業界40年のベテラン。この夏45周年記念「湘南サウンドSHERIFF」を発表