無垢材とは?
一本の原木から角材や板を必要寸法に切り出したものを無垢材と呼びます。それに対して、木の破片や薄い板を集め、接着材で貼り付け大きな寸法の部材としたものを木質材料と呼びます。主な種類として集成材、合板(ベニヤなど)、LVL、パーティクルボードなどがあります。
生木には樹脂にもよりますが、一般に40~300%の含水率があり、木材として出荷する際、多くは天然乾燥や人工乾燥を行い、含水率を20%前後にして用いられます。十分に乾燥されていない木材は重く、腐りやすく、収縮・変形し、強度も乾燥材に比べて小さくなります。乾燥された木材も湿度の高い環境に置くと含水率は上昇し、逆に湿度の低い所では吸い込んだ湿気を空気中に戻します。このように一定の湿度を保とうとする無垢材の吸放出性のことを「木は呼吸する」と言っています。
たとえば内装に木を多く使用した部屋であると、大体1日を通して約50%前後の湿度を維持します。夏の高温多湿、冬の乾燥する日本の気候に適している材料だといえます。また50%程度の適度な湿度ですと、空気中の浮遊菌が激減します。木を使うことによって、健康な暮らしをつくりだすことができます。 しかし無垢材はこの湿気を吸放出することによって収縮・膨張します。そしてそれによる隙間や割れ、反りや歪みを生じさせることもあるのです。
無垢の木は、度を超えた強制的な人工乾燥を行わない限り、高温多湿な日本の過酷な住環境の中でも、その性能を長い間保つことができます。100年前に建てられた家に使われている木材であっても、その性能は失われていません。
では新建材はどうでしょうか? どんなに自然素材の性質に似せようとも、自然素材のもつ性能を越えることは現代では不可能です。
家も、それを構成する材料も、一部の長所はアピールしても、耐久性に対しては、メーカーも造り手もあまり多くを語りません。専門家がその知識を知らないのであれば問題ですが、たとえ知っていても言えない、言わない現状が今の日本にはあるのでしょう。残念でなりません。
ビニールクロスと自然由来の材料との比較を考える
家づくりに間取りやデザイン、住まい方は大事ですが、建物の温熱環境計画や耐久性なども同様に大事な要素です。その違いが、その後のランニングコスト(維持・管理費)にも大きく影響します。
現在、一般的に普及をしているビニールクロスは5年くらいから汚れや黄ばみが目立ちはじめ、ビニールゆえに素材の収縮が色濃く現われはじめ、使用状況によって程度の違いはありますが、一般的には10~15年位が寿命といわれています。
それに比べて自然由来の材である漆喰の場合は、3mm塗れば、30年以上その性能を保ち続けます。日々のメンテナンスもさほどいらずに、です。私は、自然素材での家づくりは健康志向だけではなく、高い耐久性が大きなメリットのひとつと考えています。
初期コスト(導入費)
先に合板の話をしましたが、弊社比ではありますが、外壁の下地として使用材を比較してみると、厚さ12mmの合板の1枚の金額が約1000円とすると、それにかわる木摺パネル(杉 厚さ15mm)に換算すると約1400円になります。施工方法もさほど相違がありません。
1.4倍の違いがありますが、耐久性は合板が25年~30年に対し、無垢の杉材はその何倍も性能を維持します。その他の性能も明らかに無垢材が長けています。30年前後で家を解体する事が前提で、性能は問わず、安いだけのコスト計算を行えば合板でも良いかも知れません。しかし、その何倍も耐久性があり、その他の性能についても比べ物にならないほどの自然素材は、価格は1.4倍しか変らないのです。
また、コストばかりに目を向けていると、他の弊害も出てきてしまいます。
そのひとつに温熱環境があります。またおろそかに計画をすると、月々の光熱費が想像をはるかに超えてしまい、住宅ローンの支払計画すら狂ってしまうことにもなりかねません。建物を計画する上では、使用する素材によって大きく変わってしまうのです。
その点、自然素材でつくられた家は、太陽光発電や空気を循環させ、温熱環境を作る大掛かりな設備や、何よりそれらを動かす石油、ガスなどの一次エネルギーや電気などの二次エネルギーを無駄に使うことなく性能を発揮できる建材といえます。今の日本の家づくりに欠かせない建材なのです
自然素材は身近で、もっとも日本の住いづくりに合っていて、そして欠かせない建材です。決して自然素材は難解なものではありません。今だからこそ自然素材は、古くて新しい建材なのです。
しかし市場には、自然由来の素材である漆喰・珪藻土のもつ性能とはほど遠い、名ばかりの別物商品が多く存在しているのが現実です。
漆喰・珪藻土の名のもとに、プロ・アマ問わず、メーカーの宣伝文句を鵜呑みにして性能も疑わず、信じて家主に使用を勧め、家主はプロが言うなら…と信じて採用されている方も多いのではないでしょうか?
メーカーや建築士・工務店の専門家の言葉をすべて疑えとはいいません。しかし、家づくりのための予備知識として、より専門知識が必要な耐震や構法の話を見聞きする前に、まずはそれらをつくる材料や使用方法を勉強する必要があります。
家は正直です。家の寿命が25~30年では困りませんか?
自然素材と新建材を調べれば調べるほど、比べれば比べるほど、新建材の性能も耐久性も劣る実態を知るだけです。混ぜ物(接着剤)商品しか存在していない『珪藻土』を自然素材と売りにしていたり、ベニヤやボンドなどの新建材を多用しているにも関わらず『自然素材の家』をキャッチフレーズにしている家づくり。 家づくりに携わる身としてあえて言いますが、人の健康や財産まで奪う権利は国や我々造り手にはありません。目先の性能やコストだけを追わず、未来の子供達へ向けて、事実は事実として、専門家がそれを隠すことのないよう正直に伝える。事細かに説明を行い、その中で建主に選択の自由を与えるべきだと思います。家づくりに携わる身として、ただそれだけを願っています。
<プロフィール>
文/山本康彦◎1968年神奈川県鎌倉市生まれ。17歳から職人として湘南でもとは職人としてこの世界に30年近く湘南の地で家つくりに携わる。土を利用しての建材、版築製品の研究・開発、販売などに従事。一級建築士だけではなく、古民家鑑定士などの資格も30以上持っており、伝統的な構法や建材にも造詣が深い。近代の建材(新建材)や工法の矛盾や実害を肌で感じ、人が住まう家というものを原点から見つめ直す。エコブームに流されないパッシブで地域循環型の家づくりをめざし、未だ解明されていない伝統的な工法や素材について研究や開発に余念がない。