東京羽田、川崎周辺と房総半島を結ぶ海中道路「アクアライン」を走り、圏央道を40分ほど走った所にわが家はある。世界の中心都市東京から1時間半で古き良き日本の田舎に会える。わが家の周りには電線に遮られる空は一つもない。排気ガスの味がする空気などどこにもない。見渡す限り、お米と旬の野菜が実る畑と子供達の秘密基地でもある林や空き地、そしてどこまでも続く太平洋が広がっている。
この辺はたくさんの空き家がある。築50年以上の古民家もたくさんある。都会っ子のビジネスマインドは私からすれば、「賃貸にすればいいのに」とか「abnbにすればいいのに」とかお金に変える方法を考えてしまう。ところが地元の人達に聞いて見たら、面白い答えが返ってきた。
「代々守られてきた土地を手放したり、赤の他人に渡すということは、その家の恥である」つまり、「あー、あそこの家、とうとう手放しちゃったのね、あんなに大事に受け継いできた土地なのに」とか「知らない人にすませて賃貸にする必要あるのかねー」とか、ヒソヒソとネガティブ噂が一気に広まるらしい。そんな窮屈な思いをするなら、廃墟としてそのままにしておいたほうが美談ということだ。
住んでいる身からとすると、その廃墟っぷりといったら正直不気味である。子ども達がお化けの話を作り出すのも理解できる。空き家には不法投棄があったり、放火も起きる。地域の景観を損ねたりマイナスだらけなのは事実だ。
海外育ちである私としては古民家が大好きである。戦前に建てられた家は芸術とも言える。電気やガスもない時代の家の作りは天才的であり、なぜ、これが引き継がれなかったのだろうかと疑問に思うほどだ。その荒れ果てた廃墟が手直しされ、薄化粧をされ、もう一度呼吸を始めた時、地球の一部である家が堂々と現れるだろう。
残念ながら賃貸の我が家はオール電化で地球の敵ともいえる電磁波満載の、エネルギー無駄使いの最新型の家である。外観は木造なので景観を損ねることはないが、エネルギー事情が残念で仕方ない。まあ、自分の家を持つときのための色々練習期間として良い所、悪いところを学んでいるとしよう。私にも近々やってくるマイホームという大仕事。その時は日本という気候から生み出される四季折々の毎日の大自然のパフォーマンスを阻害することのない家作りを目標としたい。日本の土地が作り出した芸術を取り入れ、100年前の人が来ても居心地のいい懐かしさを忘れることなく。
田舎に住むと四季の変化がとてもわかりやすい。大寒波がやってくるという予報の中、ご近所さんがお庭の梅をくれた。細い枝いっぱいにまん丸のピンクの蕾がびっしりとついている。ぽん、ぽん、と咲いている花の香りがこんなに可愛いと思わなかった。
田舎暮らし3年目の春が少しずつ近づいて来ている。
文=堀内尚子 ほりうちなおこ
◎1978年東京都出身。小中学時代をベルギー、フラーンなどで活躍。サーフィン、スケート、スノボー、SUPの4Sをこよなく愛する。声の仕事やライフスタイルの情報はInstagram/Facebook:堀内尚子でチェック!